安積道也合唱指揮法マスタークラス2024

去る8月17~18日、安積道也先生を講師とする合唱指揮法マスタークラスにアクティブ受講生として参加しました。(主催:コーラスカンパニー)

安積先生はドイツのハイデルベルク教会音楽大学の教授で、合唱とオーケストラの指揮を教えるプロフェッショナル。デンマークの指揮者・モルテン・シュルト=イェンセン(Morten Schuldt-Jensen)が興したスポーツ科学的観点から構築された合唱の指揮法を修め、それをベースとして独自の指揮教授法を追求していらっしゃいます。

昨年(2023年)にも同様のマスタークラスがあり、僕は合唱受講(アクティブ受講生の指揮の下で歌う合唱メンバー)として参加しましたが、そこで示されるテクニックと理論の数々に圧倒され、さらに安積先生のレッスン生に対することば、身振りに、トレーナーとしてレッスン生と向き合う身として多くのことを学びました。

「この人のもとで、一から指揮を学びたい!」と心から思い、万難を排してマスタークラスへ応募しました。


実はわたくし、この年になるまで指揮法のレッスンというものをちゃんと受けたことが一度もありませんでした。

せいぜい大学生のころに指揮法初心者講座みたいなのに潜りこんで叩きとか平均運動とかをかじったくらい。指揮法の書籍はたくさん読んでたし、レッスンビデオとかもたくさん見て物真似していましたが、所詮机上の絵空事。生で自分の指揮を人に見てもらい、直接指導してもらうという経験がほんとうになかった。

そのくせ肩書に「合唱指揮者」などと掲げていることに以前から恥ずかしさというか、申し訳なさのようなものをずっと抱えてきたのでした。

それならもっと早くに指揮法学んどけよ、というご指摘はまさにその通りでして・・・でもなぜか、日本で教えられている大概の指揮法になにかしっくりこないものを感じていたのも事実でした。

昨年のマスタークラスでは良く知った友人たちが受講生となっていて、彼ら彼女らの急激な成長と音楽の輝きを目の当たりにしたことにも背中を押されました。今年で44歳になる、もはや若手とは呼べない(ましてやニューリーダーなどではない)年代となった自分が、若い人たちも応募するこういった講座に申し込んでいいのか・・・と一瞬逡巡しましたが、なにより自分の目の前にいる合唱団員にもっと楽に、もっと充実した音楽を堪能してもらうためには、自分が成長しなければならない!


安積先生の指揮法は「指揮者のふるまいが合唱団のサウンドを(良くも悪くも)変えてしまうこと」にまず気づき、その便利さと恐ろしさの両方を受け入れることから始まります。

指揮が変われば合唱のサウンドも変わる、とは当たり前のことのようですが、結構見逃されがちなことでもあります。「歌いやすい指揮」が単にその指揮者のカリスマと結びついているだけのこともありますが、そこにはちゃんと技術としての裏付けがある。

子音の入れ方、呼吸の取り方(切り方)、母音の音色、フレーズの形、アゴーギグとデュナーミク・・・多くの場合”ことば”で説明されてしまうようなことがほぼすべて指揮者の身体と動作によって示されうる。そして逆に、意にそぐわない指揮の動きが合唱団を苦しめてしまうこともありうる、という怖さ。

指揮者のある動きが合唱団の歌唱に特定の変化をもたらすことを科学的に分析したモルテンの技法に加え、安積先生の指揮法には”型”と”気”の要素があるような気がしています。(安積先生に聞いたところ、実は先生、合気道の有段者とのこと!案外見当はずれじゃなかった)

指揮者にとって合唱団は他者であり、合唱団にとっても指揮者は他者でしかありません。他者の身体と心にアプローチするには、自分自身の柔らかさ、滞りのなさ、敵意のなさが必須だと、レッスンの折々で実感しました。


本当に大量の情報が洪水のように脳と身体に押し寄せた二日間で、そのすべてを思い出すことはできないのですが、いくつか自分自身に刺さったこと。

  1. 4つの点(Impuls、Antipunkt、Stoppunkt、Punkt)の作用と動作の分担。特にImpulsの重要性。
  2. 腕の動く方向による声のレジスター、音色の変化
  3. 拍の点を明示することで「正解」を与えてしまう(=間違いの許容範囲が狭まる)
  4. ルネサンスポリフォニーでは歌い手とともに動く(歌より先にいかない)
  5. 口の開きや目線の方向で歌い手のブレスが変わる
  6. 上腕から肩甲骨の自在なコントロール、さらに広背筋、前鋸筋、胸筋との緻密な連携
  7. 指揮者も歌い手と同じかそれ以上に筋肉を使った「運動」をしなければならない
  8. 指揮しながら合唱団の音をすべて聴く(指揮の動作のみに集注しない)

レッスンの中で安積先生が示されたメッサ・ディ・ヴォーチェを振るテクニック、自分は全然できませんでしたがため息が出るような鮮やかな指揮でした。本当に歌いやすい、導かれるようなノンストレスの指揮!

指揮者の身体の筋肉の動きが、ここまでダイレクトに歌い手の声、呼吸に作用しうるということ。それは、人間として他者と向き合ううえでの「生き方」にも通じているように感じられます。僕の中では身体教育研究所で学んだ整体の動法や、武術的なものともリンクし始めているようです。

そしてなにより、上記の様々なテクニックに先立って、「自分の中に音楽が流れているかどうか」が指揮者の一挙手一投足の価値を決定するということ。今回の受講生はそれぞれ異なった音楽のスタイル、テンポ、音色イメージがあって、その個性をできるだけ排除しないようにしながら生徒それぞれの「やりたいもの」に道筋を与えてくれる安積先生の教授法は、僕には感動的ですらありました。

2日間のタイトでインテンシブな講座を共に乗り切った8人の受講生、仲間でもあり新たな教えを授けてくれる先生でもありました。皆さん本当にありがとう&お疲れ様!

そしてなにより、この素晴らしい教えを惜しげもなく下賜され、私たちを合唱指揮の新しいフェーズへ導いてくださった安積道也先生、本当にありがとうございました!

まだまだ、学ぶべきこと、学びきってないこと、知りたくてたまらないことが山ほど目の前に積みあがっています。もし機会があれば来年も受講を目指したいと思っています!!

合唱

Posted by Taku Sato