他者と体験を共有する 〜ビッキンダーズWS~

先日、常民一座ビッキンダーズ主催のワークショップを開催いたしました。

本当は野外で行う予定だったのですが、おり悪く台風が迫ってきており、やむなく室内でのワークショップに変更。

当日飛び込みの方もあって、総勢十二名の受講生とともにさまざまなワークに取り組みました。

手の形はビッキンダーズポーズ(仮)

この企画は、ビッキンダーズがコロナ禍の最中に人前での演奏機会をなくしてしまい、それなら民謡が元々歌われていた唄の故郷に声を還しに行こうと、山や海や畑に出かけて行った先々でのさまざまな気づきや体験を多くのかたに経験してもらいたいと思って始めたものです。

6月には実際森の中で仕事唄を歌い、環境によって声が変わっていく、自分の知らない声を発見する体験をしてもらいました。


今回は室内だったため、外界の自然から受ける影響はあまり望めなかったので、我々が普段どのようにして常民の唄を稽古しているか、その追体験をしてもらうワークをメインにしました。

取り上げた曲は、群馬県の利根川堤防工事唄、別名「土羽突き唄」です。

土羽突きとは、堤防の斜面を強固にするため、複数人が横並びで堤防の上、または下に並び、専用の器具(柄に平たい板がついたもの)で突き固めていく作業のこと。

一度突いたら、一歩横にずれて隣の人がさっき突いたところをまた突き、また横にずれて…を繰り返して、少しずつ堤防の先の方へと進んでいきます。

上の動画では一人でやっていますが、これを何十人とかでやるんですね。仕事にかかるのは男性だけでなく、女性や子供も含めて、地域一丸となって行うことが多かったよう。

土羽突き唄はこの作業の最中に歌われるものですが、労働の辛さを忘れるため、また大人数の呼吸と律動を揃えるために、大変実利的な機能を担っている音楽です。


 

ビッキンダーズがこういった曲に取り組むには概ね以下のような手順を踏んでいます。

  1. かつての常民が歌った録音を探し、何度も聴いて覚える

  2. 実際の作業がどのようなものだったか、季節、環境、作業人数、時間帯などを細かく調べる

  3. 実際に作業を含めて真似てみる。どうしてもわからない点があれば想像力で補う。

いわば当時の労働者たちが当たり前のようにやっていたことを、時空を超えて追体験しようとしています。

できれば楽譜や採譜には頼りすぎず、体から自然と湧き起こる声と律動を探し求める、その発想は間宮芳生さんの言葉に導かれて得たものです。

時には、他のどんな音楽によっても換えることのできないようなよろこびを与えてくれるような民謡に出くわすことがある。そこにあるのは、本当にまじりけのない音楽の姿、人が音楽に出あうときの旨の踊るようなよろこび、心から美しいナイーブな旋律。そして、そんなうたはいつも、うたが生活の中で、たとえが労働とともにあり、労働にとって欠くことのできない機能をはたしているときや、民俗信仰が民衆の心の中に生きていたときの、またはそんな息吹を留めているようなうたなのである。機能が生きているとき、言い換えれば、たとえば労働の場での機能を負って、いわば道具としての役目をしているとき、昨日を離れて、ときには鑑賞用になったりしているときよりも、はるかにまじりけのない音楽が息づいているという風に信じられるという、一見逆立ちしたような現象は、実に興味深いことだった。」

間宮芳生『日本民謡集』より

大仰かもしれませんが、ビッキンダーズの試みはまさにこの「機能」に回帰して、歌が生まれる瞬間を再発見しようとするものです。


いつもは3人でああでもない、こうじゃないかと思索をめぐらしながら試行錯誤しているのですが、この日のワークでは、12人の受講生の声が加わったことで、この民謡のもっている律動感と呼吸の間合いが自然と出来上がっていくのを感じました。

歌いながら「ああーこれがほんとうのこの唄の面白さなのかぁ」と、一節ごとに感動していました。いまここに自分たちの唄が起ころうとしているのかもしれない。

ビッキンダーズの体験を他者と共有したことで、自分たちでは到底知りえなかった境地に、難しい背景の説明を経ずに到達することができた気がします。

この「体験を共有する」ということ、自分にとってはこのごろの一番の関心事です。

何かを「教える・授ける」のではなく、自分が先行して体験している現象・遊び・テクニックを他者と共有し、その結果現れるものを受容すること。体験の内容と結果はけっしていつも同一のものとは限りません。

発声レッスンでも、「十種発声」のプログラム自体が体験共有であることにも気が付きました。(これについてはまた別の記事で)


ちなみにこの「土羽突き唄」、途中にラップ風の語りの応戦があるんですが、その歌詞を現代人の感覚で創作し直してみよう、というセッションも行いました。

もともと民謡の歌詞に決まった形はなく、その時々の流行や歌い手の感興で様々に新しい歌詞が生まれていました。そのクリエイティブな行為も真似てみようと。

七五調のコール&レスポンスが3回繰り返されるのですが、その時みんなで作った歌詞がこれ。

新作フラペ(フラペチーノ)が 食べたいな
   いろいろ乗せましょ トッピング
スタバかファミマか スリーエフ
   あそこにスタバの 新店舗
本日手持ちが ございません
   それならおいらが 奢っちゃろ

固有名詞まみれなんですが(笑)、よくこんなのすぐ思いつきますね。みんなで爆笑しながら歌いました。

動画がありますのでぜひご覧ください。

 

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Posted by Taku Sato