ビッキンダーズ公演「野のうた はじまりの音楽」終演!

11/4(金)、私が座長を務める常民一座ビッキンダーズの初のホール公演「野のうた はじまりの音楽」が無事開催されました。

会場の大泉学園ゆめりあホールは170席、直前にたくさんのお申込みをいただき、まさかまさかの満席御礼となりました!!

20名で満杯になるような小さなイベントスペースから始めた一座の演奏活動が、ここまでたくさんのお客様を迎えられるようになったことに感慨ひとしおです。

ご来場くださった皆様、本当にありがとうございました!!

ビッキンダーズの成り立ちとこれまでの歴史についてはぜひこちらをご覧になってください。


本来2020年4月に行う予定だった「まみやまみれ四巡目」という名の公演はコロナ禍のため中止に、今回はそのリベンジとなるものでした。

間宮芳生作曲の歌曲集『日本民謡集』全曲を座員3人がすべて歌いきるまで続ける「まみやまみれ」シリーズですが、コロナ禍中に行った、野山や海へ民謡を還しに行く試みを経たことで、民謡そのものに対峙する声と身体に様々な変化がもたらされ、以前とは違った視点でこの作品集の豊かさが見えてくるようになりました。

今回は既刊楽譜には含まれていない3曲の民謡「おいな」(新潟)、「鷺舞」(島根)、「茶もみ唄」(山形)に初めて取り組みました。これは2006年に青山恵子さんが委嘱初演されたもので、現段階では間宮さんの最新の民謡編曲です。

(楽譜の入手にあたり寺嶋陸也さん、青山恵子さんに多大なご協力を賜りました。篤く御礼申し上げます。)

間宮作品との対峙はいつでも挑戦です。唄の旋律はだいぶインストールしやすくなったと思いますが、それがピアノと合わさるときの緊張感は、まるで火花が散るような真剣勝負。

岡野勇仁さんの安定感のある繊細かつ大胆なピアノに支えられて、ビッキンダーズの3人も自分たちのポテンシャルを引き出すことができました。個人的には「南部牛追唄」を、まったくクラシカルな発声を排除した形で歌えたのが収穫。


今回最大の挑戦はなんと言っても『合唱のためのコンポジション第1番』に取り組んだこと!

このために僕が信頼し、尊敬する歌手7名にお声がけし、ビッキンダーズの3人とともに”常民唱団ばっきゃーず”というグループを結成しました。多くは歌も歌う合唱指揮者ですが、さとうじゅんこさんのように合唱とは縁遠そうなヴォーカリストにも加入いただきました。

(「ばっきゃ」とはうちの田舎の方言で”フキノトウ”のこと。)

とにかく全員エネルギーとパワーがすごい!そしてたくさんのアイディアを共有してくれて、リハーサルはいつも創意にあふれた柔軟で溌溂とした楽しいものでした。

コンポジションを歌うために、というより日本の民俗的な音楽を題材とした合唱作品を歌うために、日本人はどのような声で臨むべきか?というのは僕の長年の課題でした。それこそ大学生の時からずっと考えているかもしれない。

いまのところ僕は「民謡を歌うための一定の声質・声色は存在しない」と考えています。
しかし「民謡を歌う際の身体・律動・環境イメージが必然的に呼び起こす声は確かに存在する」とは信じています。

ですからばっきゃーずのリハは、ある声に統一していく作業はほとんどせず、その唄が自然に湧き起こるであろう瞬間に立ち返り、そのとき「出ちゃった声」を次々に肯定し、獲得していくための時間でした。

安易な”民謡っぽさ”、”田舎っぽさ”に陥ることなく、文明社会の中で生きる現代人の中からも民謡を魅力的に響かせる声が見つかるのではないか。これはひとつの実験のようなものでした。

初回のこの公演はまさにトライアルですが、確実に大きな手ごたえを悦びを感じることができました。本当にすごい方々に集まっていただいた・・・コンポジションはこのメンバーであと99回歌いたいです(笑)。

ばっきゃーず団員は以下の皆さま。

赤坂 有紀
さとう じゅんこ
日下 麻彩
田村 幸代
佐藤 拓
大野 和仁
柳嶋 耕太
中原 勇希
原田 敬大
中村 径也


お客様からもたくさんの暖かいお言葉を賜りました。

一番うれしかったのは「楽しかった」という感想ですね。プログラム的にはかなりシビアで、前衛と民謡のハイブリッド(というより激しい衝突)な楽曲が続くのは聞く方も大変ではなかったろうかと心配していたのですが、その言葉でだいぶ報われます。

あと、「やっていることがすごすぎて全然「常民」じゃない」という、誉め言葉なのかお叱りなのかわからないお言葉もいただきました(笑)。

確かに我々、「ごく普通の人々」をさして「常民」と言っているんですが、我々が参考にしている古い民謡の録音を聞くと、かつての「常民」の歌声は信じられないほど力強く、伸びやかで美しく、笑ってしまうほど面白く、そしてなにより衒(てら)いがないのです。

そういう歌声を今の我々は持ち得ているか?

一座が「常民」にこだわるのは、彼らが無名のありふれた人々でありながら、その内側に果てしないうたの源泉を持っていることへの強い憧れゆえなのです。

間宮芳生は、音楽のもっとも重要なことは「精神の明快さと優しさ」であり、それを自らの中に呼び起こし続けることが民謡に取り組む所以だと語っています。僕も、一座も、歌い続けることでその境地に達したい。


ひとつ大きな達成感を得た一座ですが、まだまだ歩みは止めません!

といっても、それぞれの歩調に合わせてゆっくりじっくり行くのがモットーなので、次の企画はなんにも決まってません(笑)。

来年あたり、何組かのグループとジョイントライブとかするかも・・・あ、ワークショップは定期的にやっていきたいと思います!

今後もビッキンダーズ、そしてばっきゃーずの動向にどうぞご注目ください!