ZIPANG ~歌譜喜コンサート~

9月18日、僕の所属するVocal ensemble歌譜喜のコンサート「ZIPANG」が終演いたしました。

主宰のトミー(富本泰成)作によるインパクト抜群のチラシ、ご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。これ、イラストソフト上で手書きらしいですよ!

ジパングの名の通り、今回のプログラムはすべて日本語の無伴奏作品。これまで北欧作品や海外のアカペラグループのカバーを主としてきた歌譜喜ですが、日本の作曲家への委嘱活動もたびたび行ってきており、日本語作品へのコミットは強い方でした。

それでもこれほど大量の、しかも多種多様な日本語作品をまとめて演奏するのは初めての機会。

もともと海外コンクールへの招聘の話が上がり、そのプログラムとして日本の作品を検討していたこともありました(そのコンクールは結局時宜が合わずお断りすることになってしまいましたが)。


全4ステージのうち3ステージは僕が選曲しました。

第1ステージの三善晃作品は、没後10年生誕90年のメモリアルイヤーである今年に合わせての選曲。そもそも三善作品には6人で歌えるアカペラものが極端にすくないのですが、その中でもさらに「小さいものへのまなざし」を感じさせる5曲を選びました。

『クレーの絵本第1集』より "階段の上の子供" “あやつり人形劇場"
『あてわんみそのうた』より "おじぎの前に…" “でこ坊やかえろうよ"
『三つの海の歌』より "おなかがかゆい"

クレーの絵本は歌譜喜の2ndコンサート以来の再演。9年前よりだいぶ深まった歌になったのでは。

おてわんみそは三善にはめずらしいわらべうたの編曲。子供たちの生きた想像力とイノセントな精神がそのまま反映された見事なアレンジ。和声は三善そのもの。もっと演奏されてよい作品だと思います。

三つの海の歌は昔から演奏したかった作品。しかしこれが非常に難しい。この1曲だけが6人で演奏可能だけど、かなり高度なテクニックと音楽性を要する難曲でした。でもめっちゃ可愛くていい曲。

第2ステージは日本民謡。これはビッキンダーズの座長としてはかなりの肝いりでした。

小山清茂:花笠踊り、北海盆唄
間宮芳生:知覧節
瑞慶覧尚子:なり山あやぐ
Grayston Ives:竹田の子守唄
佐藤深雪:八戸民謡メドレー2017ver.

いずれ歌譜喜が海外に出ていくとなった時、編曲の表面上のおしゃれさではなく、日本の民俗性を根の部分で感じさせる土の匂いのする作品、という観点で小山・間宮・瑞慶覧の作品を選びました。これらの作品は西洋的な発声だけでなく日本民謡の持つ自由な声使いを生かして、「声」そのもので日本を感じさせられるものだったでしょう。

個人的には「なり山あやぐ」のソロで、コンサートの数日前に映画で元ちとせの歌を見たことで、突然南島っぽいコブシがうまくいくようになり、初めて舞台でその声を試してみましたが、結構その出来は気にいっています。

IvesはKing’s Singersの3代前のテナーでもあった編曲家。泣けるアレンジです。八戸民謡は歌譜喜のオリジナルアレンジ。こういうジャズっ気のある民謡のアレンジは海外ではウケにくいんだけど、日本国内では逆に楽しく聞いてもらえますね。

第3ステージは石井歓の『風紋』

半世紀以上前、1970年の作品で、もはや日本の合唱界では古典扱いの名作ですが、近年はあまり取り上げられることがないような気がします。1990~2000年代にかけて合唱コンクールの中学校部門の自由曲によく選ばれていたようで、その流行の波が去ったのでしょう。

しかしこの曲、男と女を風と砂丘にたとえ、そのなまめかしい邂逅と情愛を歌った「大人の」合唱曲で、とても中学生が歌えるような内容ではないと思うのです。オルフの弟子であり、「カルミナ・ブラーナ」や「カトゥーリ・カルミナ」の直情的な表現、執拗なパターンの繰り返し、旋法的和声法に影響を受けた石井歓の作曲の粋がつまった作品でもあります。

声部は少ないけれども、息の長いフレーズが絶え間なく続く大曲で、6人で歌うのは相当な挑戦でした。歌う方も相当気合の入った演奏で、お客様からの評判も殊更よかったステージでした。


第4ステージはアラカルト。ここ10年くらいの新しい作品や、トライトーンのレパートリーなどを詰め込みました。

相澤直人:宿題
松下耕:きみに
千原英喜:わが抒情詩
トライトーン:アカペラでゆこう
谷本智子:小さな幸せ(谷本喜基編曲)
トライトーン:上を向いて歩こう
横山潤子:ねむり

個人的なことですが、「アカペラでゆこう」のなかで人生初ボイパを披露しました。最初にやった時ぜんぜんボイパっぽくならなくて、インドのコンナッコール(口唱歌の一種)みたいになってしまったのが懐かしいです。

「小さな幸せ」は歌譜喜の愛する作品。原曲もアレンジもすばらしいです。この曲で泣いたというお客さんも結構いたようです。団内に名アレンジャーがいるというのは本当に最高ですね!

アンコールには、青森県民歌の「青い森のメッセージ」をBass松井のアレンジで初演!お客さんの誰もしらない曲だったと思いますが(笑)、これも非常に評判がよかったようです。いやーカッコいい曲だった。


歌譜喜の次の出番は2024年1月26日(金)のAcappelLabo concert Vol.3(曳舟文化センター)です。おそらく今回のプログラムからいいとこどりのステージになると思います。そちらも情報出ましたらお知らせいたします。

ご来場くださったみなさま、ありがとうございました!