開かれた耳と心 ~ジュリアン・グレゴリー WSツアー2026~

今年もThe King’s Singers(キングズ・シンガーズ)のメンバーであるJulian Gregory(ジュリアン・グレゴリー)さんのワークショップ全国ツアーに通訳として帯同しました!

全国ツアーは昨年に続いて2年目、ジュリアンのイースター休暇に合わせて4月のこの時期になっています。ジュリアン自身が、日本でのこのワークショップをとても大切なもの、楽しいイベントとして考えてくれていて、毎年のように来てくれることが本当にありがたいです。

昨年の記事はこちら。

今年は全国四都市を周りました。

4/8(水) 東京・渋谷
4/10(金) 宮城・仙台
4/11(土) 広島
4/12(日) 大阪

このうち大阪では4つのアンサンブルを迎えてのマスタークラスも開催。いずれもハイレベルで緻密なアンサンブルが持ち味のグループが揃いました。


今回も数十名から200名越えの参加者が、”指揮なし”でアンサンブルすることに挑戦する内容でしたが、なんといっても今回の曲目が今まで以上にハイレベル!

・Byrd :Sing joyfully unto God
・Sullivan :Long day closes
・Remember Me(映画『リメンバー・ミー』より)

ByrdとRemenber meは6声、しかもポリフォニックだったりテンションコードを多用していたりと、かなり骨のある選曲でした。Remember meは前半スペイン語でしたし。去年までのWSをへて、よりレベルの高いものを!というジュリアンの判断だったのでしょう。

参加された皆さんは音取り段階では不安だったでしょうが(笑)、ジュリアンの丁寧でポジティブな導きのおかげもあって、ごく短時間で(1曲あたり40分)で音楽が立ち上がっていきました。暗譜するぐらい準備された方は、一層ジュリアンとのコミュニケーションを楽しめたことでしょう。

3曲はそれぞれKing’s Singersのレパートリーの各ジャンル、つまりイギリス・ルネサンス期のポリフォニー、ロマン派的クロースハーモニー、そして現代のポピュラーミュージックのアレンジを代表するものですが、それぞれのスタイルによって求められる声が違う、というのが大きな教えの軸でした。

スタイルによる声の使い分け、当たり前のようですが、まだ日本の合唱シーンではすべての曲を同一の発声(主にクラシック声楽的な音色)で済ませてしまう傾向はあります。どの声が絶対的に良いか・悪いかの線引きはなくて、ただその曲・その場に適した声を選べているか、がアンサンブルにおける発声の醍醐味であると思うのです。

主催のトミーがある会場で「今日習ったことを現場で実践しても、コンクールや偉い先生には評価されない可能性もある。けれど音色の豊かさこそが合唱音楽の魅力であると思うので、ぜひ続けてほしい」と語っていましたが、僕もまったく同じ思いです。(言い換えると、コンクール的世界では音楽とは関係していない、"勝つための声色"みたいな偏りが生じているとも言えます。)


今回の旅の中で印象に残った言葉、会話を思い出してみます。

to Listen

「アンサンブルシンガーにとって一番大事にしていることはなんですか?}という質問に対してジュリアンが答えたことです。

聴くこと」。よく耳にするし、指導者ならだれでも一度は口にしたことがある言葉ですよね。ほかのパートを聴き、自分と周りとのブレンドを聴き、会場の響きを聴くこと。至極当たり前のようで、でもじゃあ、ジュリアンのレベルで聴くことを我々はしていたのか、と。

「聴く」っていうと、何かに注意を向ける、しっかり気にするみたいな感じになりがちですが、ジュリアンはむしろ意識しなくても耳に届いている情報をナチュラルにキャッチして、そこで起きていることを受け入れる柔らかさが常にあるような気がします。

Sing with Julian(ジュリアンと歌おう)という企画を各地でやりまして、僕もアンサンブルの一部として何度も歌わさせてもらいましたが、そのなかで彼のアンサンブルの妙技の真髄が、彼の開かれた耳にあることをひしひしと感じました。

第一線で活躍するアーティストは、とにかくシンプルで基本的なことを秘訣として大切にしていますね。

Enjoy

ワークショップ中にジュリアンがよく使う言葉です。Try to ~(~してみよう)もよく言いますね。

例えば子音を立てること、レガートで歌うこと、ヴォリュームを変えることなど、何らか音楽的な歌いまわしを勧めるときに、Enjoy doing ~みたいな言い方をしていました。決して「~しなければいけない」とか「~しないほうがいい」とか、「~しないのはおかしい」みたいな命令形や否定形を使った指示をしない、というか徹底的に避けているようでした。

命令や否定で脅されるより、「まあ楽しんでやってみてよ」って伝えるほうが前向きに声を出せますよね。結果、ジュリアンの言葉を受け続けるうちに、歌い手はどんどん自発的・積極的になっていくのでした。言葉のチョイスひとつで、「場」の在り方が変わっていく、これは指導者として反省を迫られる経験でした(笑)。

Be positive

WS中に不安になったりイライラすることはないの?と聞かれたジュリアンは「全然ないよ!」と断言。そばで通訳しているから、それが嘘でないのはわかります。

きっとできるはず、きっとうまくいくはずという確信が彼の中にあって、それ故に彼と向き合って時間を過ごしていくうちに参加者の中にも自信と安心が芽生えていく、そんな様をずーっと目撃してきました。

飲みの席で、ジュリアンのそのポジティブなマインドはお父さんとお母さんどっちの影響なの?と聞いたら、

「いや、これはすべてKing’s Singersで学んだことだよ」

との答え。

King’sにはグループセラピー的なアプローチでマインドセットを整えるやり方があって、グループあるいはメンバー個人に困難な状況があった際に、それをシェアしてポジティブな方向へ転換していくのだそう。世界中を飛び回るツアーで家族以上に長い時間を過ごすKing’sならではの取り組みです。

チームがうまくいくための仕組みによって個々人が成長していく、というはグループ作りの上でとても興味の引かれることでした。

仲間に対して、そして世界に対して開かれた心を持つこと。これもまたジュリアンの魅力の一つでしょう


今回は全国で400名を超える方にご参加いただきました!

しかしこれでもまだ黒字化には至っていないそう。このワークショップの価値、ジュリアンの魅力がさらに広まり、合唱の掘り下げ方に新たな視点が加わっていくのが目標です。ぜひ今回参加された方は周りの皆様にも布教してください。

今回もたくさんの方にお世話になりました。現地でマネージメントしてくださる方のご尽力のおかげです。ありがとうございました!


なによりも、毎年この壮大なツアーを企画し、情熱をもってアンサンブルの可能性を拡大し続ける主催のトミーに感謝!

来年のツアー開催もほぼ確実で、新しい場所へ伺う可能性もあります。来年はめざせ600人!