唄で耕す~ビッキンダーズと畑で歌おう~

4月9日(日)、常民一座ビッキンダーズが主宰する3回目のワークショップ「ビッキンダーズと畑で歌おう」を開催しました。

前回のワークショップの様子はコチラ。

日本の民謡の多くは、もとは農作業や漁仕事などとともに歌われていた仕事唄(労作民謡)で、作業の持つ律動や身体性がそのまま唄の中に反映されています。

稗搗きならば杵を打つリズムが、牛追いならば歩行の速度が、網漁ならばそれを引き上げる力強さが、それぞれの唄の骨格を規定しています。唄よりも先に、人間の息遣いと生活がそこに存在しているのです。

しかし唄は単なる生活の彩りではなく、それによって集団の呼吸を整え、豊穣への祈りを導き、村落社会の絆を強固にするために、なくてはならないものでした。

人間に必要とされて、しかも人の生活に常に根差した音楽が、どのような場所・瞬間に生まれるのか。それを知るために、いつか田畑で実際の農作業をしながら唄を歌ってみたいと切望していました。


そんな折、僕の発声レッスンの生徒さんがつないでくれた縁で、野口整体を教える身体教育研究所鎌倉稽古場が畑での農作業を稽古に取り入れていることを知り、代表の大松美紀子先生とお会いすることができました。

鎌倉稽古場では人間の身体性を拡張、開放をすることを目的として、機械化以前の古い農具を使った手作業での耕作を20年前から稽古の一環としているそうです。僕を含めた座員も一年前から畑の作業を体験させてもらいましたが、初めのうちは鍬を一振りするだけでも自分の意のままになりませんでした。数時間の作業の後は全身筋肉痛がしばらく抜けませんでしたね。

2022年4月18日、最初の畑体験

しかし畑仕事の感覚が残っているうちは、自分の歌も、指揮も、日常の所作もちょっと変わってしまったんですね。それは自分にはとても好ましい変化で、大松先生から教わった体の使い方のコツと合わせて、自分の身体の解像度が一気に上がる経験となりました。

うーん畑ってすごい。ここでなら歌の源泉に近づけるかもしれない・・・

この畑で、ぜひ野外ワークショップをしたい!

大松先生に趣旨をご理解いただき、快く畑を使わせていただけることになりました!


なかなか大掛かりなワークショップで、装備品(長靴、軍手、着替えなど)を必要とするので、どれほど参加者が集まるか不安でしたが、10名の一般参加者と、鎌倉稽古場から6名の参加者を迎えることができました。

参加者は僕のボイトレの生徒さんや日下座員の劇団仲間、フースラーメソードのボイストレーナーの方など多彩な顔触れ。中にはビッキンダーズのワークショップ皆勤賞の方も!(いつもありがとうございます)

お借りした畑の面積はそう大きくはありませんが、雑草が伸び放題になっているのと、前日の雨で土がやや重たくなっていたことから、農作業初挑戦の人もいるので大変だろうと想像していました。

しかししかし!

いざ作業が始まってみると、参加者の皆さんのモチベーションがそもそも高いことと、一心不乱に唄を歌い続けていることで、楽しみつつも集中力が増し、あっという間に畑が整っていくのでした。

作業工程は以下の通り。

①草刈り
②鍬での土起し
③畝(うね)立て
④里芋の植え付け

この過程のうち、①草刈りでは「モンキ搗き唄(岩手県民謡)」を歌いました。

もとは土突き(家の土台を固めるために杭などで地面を打ち付ける、いわゆるヨイトマケ)のための仕事唄なのですが、歌詞が短くほぼ即興であること、旋律が覚えやすいことから畑仕事にも転用できると考えて採用しました。

音頭取りが「ハ~〇〇〇〇〇〇〇(8文字)ヨーイサー」と歌ったら、皆で「サノーヨーイサーノーヨーイサー」と答えるコール&レスポンス形式の唄。8文字部分はその場の思い付きで、参加者にランダムで歌ってもらいましたが、これが笑いを誘う楽しいもの。8文字をオーバーしようが、メロディがめちゃくちゃになろうが、必ずみんなが答えてくれるので延々と続けられます。

まさに口から出まかせなんですが、この「出まかせ」の適当さは唄の始源的なエネルギーだと思います。そしてそこに笑いや可笑しみがあるのがさらに良い。

②土起しでは「畑打唄(岩手県民謡)」を歌いました。

全国的にみても畑仕事用の歌というのは珍しく、『日本民謡大観』にもほんの数曲しか収められていません。田んぼでの仕事唄が畑に転用されていたことも多いのですが、そもそも鍬を振るという作業がかなり大変で、この作業をしているときには身体はすべてそちらに持っていかれて、とても唄を歌おうという状態にならないのかもしれません。僕自身もこの作業を経験した時に、夢中になるあまり全然歌声が沸いてこなかったことも思い出されます。

なので、この作業は二手に分かれて、鍬を振る人と、唄でそれを鼓舞する人、というように役割を分担しました。唄が社会的な結束を強める機能があるならば、そういった形で仕事の「場」を朗らかにすることもあったのではないか。これは僕の仮説です。

参加者に聞くと「歌で背中を押してもらっているような感じがして力が出た」「作業しながらでも合いの手の「ソーレ」くらいは声に出せるようになってきた」という声がありました。黙々と作業するよりも、明らかに唄によってポジティブな感情が生み出され続けていたようでした。

当日の様子をダイジェストでまとめた動画も作りました。どうぞ雰囲気だけでも感じてみてください。
(それにしてもウグイスの声がきれい)


終了後にはみんなで集合写真を。本当に皆さんすがすがしく明るい笑顔!

「土の感触が柔らかくなっていくのが楽しかった」「みんなと歌うのが楽しかった」「初めての農作業で不安もあったがとにかく楽しかった」「体の動きと発声の関係に必然性があると感じられた」などなど、嬉しい感想もたくさん。

大松先生が最後におっしゃた一言が印象に残っています。

「皆さんの歌声と、喜びの中で作業してくださっていることが、私たちの畑の中にちゃんと入ってきて、きっと今後、この畑はもう一つ変わってくると思うんです。本当に畑を綺麗にしていただきました。」

歌うこと、そして歌によって仕事を喜びに変えることで、作物に魂が込められていく。昔の常民たちが、単なるすさびで唄を歌っていたわけではなく、そこには自然界と密に契られていたいという切なる願いもあったのだろうと思います。

主宰側であるわれわれビッキンダーズの3人も、実に多くのことを学ばせていただきました!

ぜひまたこの畑でワークショップを開催したいと思います。身体教育研究所の身体観と、ビッキンダーズ流の始源的な歌への取り組みが、ここでは不自然さが全くなく結びつくことができると確信しました。

また、この日植えた里芋をみんなで掘り起こす「収穫祭」も企画します!そのまま芋煮会もしたい!

今後もビッキンダーズのワークショップに乞うご期待!!

民謡

Posted by Taku Sato