ラトビア歌と踊りの祭典記~其の3~
※この記事は2023年7月1日~11日のラトビア旅行中にFacebookに投稿したものを編集したものです。
Day7
踊りの祭典ファイナルコンサート(の2公演目)
2023年7月7日
昨晩の大コンサート終わって休む間もなく日曜に行われるクロージングコンサートの練習が始まりました。
今回の二つの大きなコンサート、大コンサート(Lielkoncerts)とクロージングコンサート(Nolsēguma koncerts)、規模も時間も似てるんですが、プログラムには違いがあります。
大コンサートはラトビア音楽文化の根源である民謡(ダイナスと呼ばれる)を題材とした作品、また自然との調和を示す作品が多く選ばれていました。クロージングコンサートでは、まず前半に19世紀から現代に至るラトビアのクラシカルな合唱音楽の伝統が示され、後半では参加者たちのアンケートで選ばれた祭典の愛唱曲が並びます。
この日の午前中はアカペラをメインとした合唱曲のリハでした。日本でもお馴染みVasksの作品や、Plakidis、Imants Kalniņš、Emils Dārziņšなどの硬派な作品。
僕は指揮者合唱団(Diriģentkoris)という、合唱指揮者や合唱指揮者の卵たちだけが集まるエリアで歌っていて、とにかく周りが上手いので耳福、かつ自分が変な音出してないかドキドキ。
午後は一旦ホテルに戻ってちょっと休んだ後、夜はダウガヴァ・スタジアム(Daugavas Stadions)で行われる踊りの祭典ファイナルコンサート DEJU LIELUZVEDUMS „MŪŽĪGAIS DZINĒJS”(永久機関)を観劇。
ファイナルコンサート、と言ってますが同じ演目を3回やるそうで、この日はその2回目。歌の祭典よりもチケット争奪が厳しく手に入れるのは至難なのですが、関西ラトビア協会の上野慶三様がお譲りくださり、念願の初観劇となりました。
ガイスマ団員でもある串田百花ちゃんが踊り手としてコンサートに参加していました。日本人で歌の祭典と踊りの祭典の両方に参加したのって、多分彼女が初めて!ものすごい快挙です!
3日に観劇した踊りのコンサートとは違ってこの日は屋根のない巨大な競技場。人数も踊りの規模も桁違いに感じました。僕は正面中央付近の高い位置の席をあてがっていただき(後で聞いたら相当レアな席らしい)、コレオグラフィーの全体を見渡すことができました。
一度に何千人という踊り手が同じ振り付けで踊っている、という一体感にも圧倒されるけど、踊り手一人一人が生き生きとして、それぞれの人生の喜びを謳歌している様が、筆舌に尽くしがたく感動的でした。特に入場のセレモニーと全員集合のフィナーレは震えるほど。
踊りの祭典は歌の祭典よりも歴史は短く、ソ連時代に始まったいわば旧共産圏時代の遺物ですが、今となってはラトビアの人々の民族の悦びと生き様を映し出す真にラトビア的なイベントとなっているようでした。
Day8
ジンタルスとの再会&クロージングコンサートGP
2023年7月8日
この日は朝からクロージングコンサートの通しリハーサル。ここまできてから、今回のプログラムの全貌が明らかになってきました。合唱だけでなくかなりの量のダンスがあるようで、午前中は踊りの祭典に出ているメンバーも集まって踊りを披露してくれました。
歌の祭典のコンサートに踊りが入ることはあるんですが、これは今までに見たことがない規模!ダンスの間も歌い手はさまざまなコレオをするようで、必死で周りについていきます。
この日は嬉しい再会も!
2018年祭典のパレードの待ち時間で仲良くなったアイルランド・ラトビア人合唱団eLvēの指揮者Inguna Grietiņa-Dārziņaが指揮者合唱団のすぐ近くに。彼女に紹介してもらってオーストラリアの指揮者Edgars Vegnersさんとも初対面
昼食時には5日前に取材してくれたロンドンの映画監督Conor Gormanが再度ちゃんとした映像を撮りたいとのことでしっかりインタビュー。拙い英語でしどろもどろで答えましたよ。
夕方には女声合唱団ジンタルス(Dzintars)との森の中での交流会。ジンタルスは日本ラトビア音楽協会設立のはるか前から日本と交流があり、ガイスマにとっては最も大事な友人たちの一つ。たくさんのフルーツやケーキを用意してくださり、木漏れ日の中で小一時間の楽しい語らい。
夜はクロ-ジングコンサートのゲネプロ!これもやはり衣装を着て、お客さんを入れて、本番通りの進行で行います。同じ時間帯に踊りの祭典のファイナルコンサート(3回目)が行われているので、踊りは省略。本当の姿は明日までお預け。
5年前にも感じたことですが、ゲネプロですでに感動してしまいます。周りのラトビア人指揮者たちに溶け込むように、この日は暗譜できる曲は譜面を落としてみました。そうすることで、ようやくラトビア人の心に触れられるような気がします。明日の本番はさらに一歩進んで…!
Day9
過去最大規模のクロージングコンサートへ
2023年7月9日
いよいよ歌の祭典最終日。クロージングコンサートが開演する19:30までは何も用事がないので、昼間は最後のお土産タイム。ヴェールマネ庭園の民芸市場、スーパーのRimiとStockman、中央市場を巡ってごっそりお買い物。
そしていよいよクロージングコンサート”共に、天へ” Noslēguma koncerts “Kopā augšup"
快晴の空の下、森林公園(Mežapark)のステージに色とりどりの民族衣装がきらめきます。
「歌」と「踊り」の祭典の閉幕に相応しく、合唱だけでなく民謡、ダンス、アクロバットが一体となった、壮大なスペクタクル。踊りの間も歌い手はさまざまなボディアクションで応えます。
いくつか合唱団が楽譜を配られていないダンスの曲があったのですが、ラトビアの人々にとってはかなりメジャーな曲のようで、僕の周りでは暗譜で歌う人が多数いました。
そのうちの一つ"ES IZJĀJU PRŪŠU ZEMI"は男声が終始メロディーをリードする曲で、頭から離れません!
これもまた名物ですが、好きな歌、よかった演奏の後には「歌い手側から」アンコールが起こります。こういうこと、普通のイベントでは起きませんよね(笑)
コンサートの終わりにはラトビア人が最も大切にする4曲が歌われます。
・Manai dzimtenei(我が祖国に)
・Saule, Pērkons, Daugava(太陽、雷鳴、ダウガヴァ川)
・Gaismas pils(光の城)
・Pūt, vējiņi(風よそよげ)
ラトビアへの敬意と、共に歌うラトビア人たちへの憧れとをもって、譜面を見ずに歌いました。歌いながら、1万6千人のラトビア人たちの歌への熱意が肌を震わせました。
一つ一つの歌に歴史があり、歌い手と踊り手の一人ひとりに人生があり、それが5年に一度のこの瞬間、一つの「国」の姿を映し出す。
Raimonds Tīgulsの曲”Rita un vakara dziesma”(朝と夕べの歌)はこんな詩で始まります。
Pa vienam mēs skaņa, bet kopā vārds
kas pāršalkt var zemi kā pērkon dards
私たちにはそれぞれ別の音だが、
一つになれば大地を震わす雷鳴のような言葉となる
ラトビア人はこれからも歌でもって自分たちの共同アイデンティティを保ち続けるでしょう。
それも、大いなる悦びと楽しみと共に。
Day10
終わらない歌の祭典
2023年7月10日
深夜1時に終演したクロージングコンサート、しかし参加者もお客さんにもすぐには家路につきません。最終日は徹夜で歌って踊って祭典の余韻を楽しむ「Sadziedāšanas nakts」と呼ばれる時間です。今では祭典の公式なイベントの一つになっています。
5年前はへとへとに疲れてすぐにホテルに帰ってしまったのですが、ラトビア人はみな「Sadziedāšanasに出なければ歌の祭典に出たことにはならない」と口を揃えていうものですから、今回は朝までいることに決めていました。
ステージではずっとバンドが音楽を鳴らし続け、ラトビアの民謡やヒット曲を延々と歌い続けます。僕は知っている曲があまりなかったんですが、ひたすらにノリノリで楽しみ続けるラトビア人たちを見ているだけで面白い。参加者と観客とが渾然一体となって、ビールを待つ間も、トイレに並ぶ列でも、森の中でも、そこかしこで歌が鳴り響いています。あー、これこそほんとの歌の祭典なのかもしれない。歌いながら生まれ、歌いながら育った民族の真の姿。
ガイスマ団員の明日香ちゃん、コンサートを見にきていた山﨑志野、Mattias、それからハンガリーからきていた山口夫妻とともにビール飲みながらしばし談笑。3時半には空が白み始め、4時半ごろに会場を後にしてホテルへと帰りました。帰りのトラムでは乗客が歌い出して(これもまた名物)、あれだけ歌ったのにまだまだみんな歌い足りない様子。
わずかな睡眠時間ののち、12時には空港へ出発。ヘルシンキ経由で16時間の旅。機内でぐっすり…💤
日本には7月11日の昼13:30に到着いたしました!
7月9日のクロージングコンサートは国営TVで生中継され、その模様がアーカイブで見ることができます。(視聴期限不明)
https://www.lsm.lv/kultura/dziesmu-un-deju-svetki-2023/mediji/video/299359
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