シニア男声合唱団によるリモート合唱の試み

早稲田大学グリークラブのOB団体の一つ、東京稲門グリークラブ(年齢層60〜80代)の有志で、2ヶ月前から制作していたリモート合唱の動画が完成しました。

信長貴富さんが編曲した中島みゆきの『時代』です。是非お聞きください。


東京稲門グリーは3月以来対面での練習ができず、5月からZoomによる定例会と練習を開始しました。

団員は全体で40人くらいはいるのですが、Zoomの参加者は20人強。なかなか全員をフォローすることができず試行錯誤を繰り返しています。それでもオンラインの参加者は徐々に増えてきました。

団員がやっぱりオンラインでは物足りないと思っていることも十分わかり、どうにか手応えのある、「やった」感のあるプロジェクトがないかと考えていましたが、この世代の男声合唱団のリモート合唱がそう多くないこと、指揮者の自分がリモート合唱を編集できる環境を手に入れたこともあり、とにかくやってみることにしました。

自分としては、はじめてのリモート合唱編集作品です。


編集は下記のような手順で行いました。

①ピアニストに伴奏の録音を送ってもらい、それに私が仮歌を多重録音して重ねる。

②仮歌をYouTubeにアップし、団員はそれを聞きながら録音する。

③録音したデータを送ってもらい、私がDAWソフトで合成する。

リモート合唱としてはごくごくありふれたやり方ですが、団員にとっては何もかもが初めてなので、録音の音質とかデバイスの種類とかには一切拘らず、とにかく曲を通して歌ってもらうことを主眼におきました。

マイクもWEBカメラとかノートパソコンに付属のマイクなどでも良いことにしました。ものすごく音割れしてる音源もありましたが、それもこの人たちの声がでかいからでしょう(笑)。

団員の皆さんは本当に苦心して録音を送ってくれました。録音した自分の声に満足がいかず、「衰えを実感しています」と一言添えられたメールが何通も。何度も何度も録り直してようやく提出した人もいます。


ノイズ除去ソフトでハウスノイズを取り除く際、一人一人の歌を聞きましたが、「ああこの人こんな声なんだ」とか、「本当はこう歌いたいと思っていたのか」など、団員一人一人の音楽的な奥行きに気づかされることが多々ありました。

自分が前で指揮を振っている時、この自発的音楽、表現への欲求を引き出すことができていたかな?と反省すらしました。

その「個」の表出を少しでも損なわないように、編集ではノイズ除去とバランス調整以外に大きなメスを入れていません。なるべくお化粧しないで、素のままを出せるように。

雑味が多い録音だと思います。縦がズレたり音程を外してしまったりするところも少なからずあります。でも、自分で編集していながら、初めてリモート合唱というもので心が動かされました。

特にサビのユニゾンで、歌い手一人一人の人生が投影され、それでいて全体が一つであろうとしている。

なんだ、合唱ってやっぱりいいもんじゃないですか。


サイトを立ち上げてそろそろ4ヶ月。訪問してくださる方も徐々に増えてきて、ようやくGoogle検索の表示順位も上がってきました。

当サイトで閲覧数の多い記事が、"リモート合唱"と"シニア合唱団員のインターネット環境に関するアンケート"に関する記事で、特に「リモート合唱(テレコーラス)事始め」はいまだにちょくちょく閲覧されています。

リモートとシニア世代、コロナ禍で合唱に携わる皆さんの関心がこのあたりに集約されているような気がします。

人生の楽しみとして合唱を続けたい、しかし感染によるリスクが高いとされ、なかなか外に出かけることが難しい、というシニア世代の苦悩を、ほんのわずかでも発散・昇華できる手段として、こういったリモート合唱のテクニックが生かされればと思っています。

いつかはまたみんなで集まって声を合わせて、酒を酌み交わしてあれこれ雑多な話をする日が来ることを願いつつ。

合唱

Posted by Taku Sato