遂に、モンテヴェルディ『聖母マリアの夕べの祈り(ヴェスプロ)』
10月半ばから本番がどっと押し寄せており、忙しさにかまけてすっかりブログがご無沙汰になってしまいました。
昨夜のことになりますが、濱田芳通指揮、ラ・ヴォーチェ・オルフィカと古楽アンサンブル・アントネッロによるモンテヴェルディ『聖母マリアの夕べの祈り』の演奏会が行われました。
当初予定されていた5月の本番が延期され、客席数を減らしたり感染対策のためのマスク着用での歌唱など、さまざまな制限の中での本番となりました。
しかしチケットは完売!お客さんには間隔を空けて座っていただいたので、ステージ上からは超満員に見えてました。この日を待ってた!という期待感と熱気も伝わってきます。
濱田さんとは半月前のびわ湖ホール『モンセラートの朱い本』に続いての共演となりました。
実はわたくし、濱田さんの指揮で『ヴェスプロ』を歌う、ってずっと夢だったのです。
そもそもこの曲を初めて聞いたのが、濱田さんとラ・ヴォーチェ・オルフィカのライブ録音で、2005年と2007年のを合わせて聞いたと記憶してます。
それはもう衝撃の一言。古楽ってどれも「おとなしく」て「清潔な」イメージのあった僕にとって、聖俗合い乱れ、時にロックに、時にジャズに、時に民俗的にありながら、激しい興奮とともにマリアを賛美するスペクタクルな表現に一発で虜になりました。
特に当時テナーソロを歌われた七条信明さんの型破りな歌唱が最高にかっこよい!もともとロック歌手で、まったくクラシック声楽的な声を使われないんですが、正直この人の声で聞いた後では他の全ての演奏が物足りなくなってしまいます。
ヴェスプロはひたすらに美しい調和した演奏や、超絶テクニックをふんだんに盛り込んだヴィルトゥオーゾな演奏も沢山あります。しかし、濱田さんの演奏には崩壊するかしないかギリギリのところで次の瞬間の音を探し出すスリリングな魅力があり、当時の人もそのようにして音楽していたであろうと言う正しい意味で”Vivo”な音楽なのでした。
あの演奏がどうやってなされたのか、あのスリルの渦の中でなにが起こっていたのか、ずっと知りたかったのです。
今回幸運にも声をかけていただいて、しかもいつくか大きなソロと重唱のお役もいただきました。
とくに第7曲”Duo seraphim”(2人のセラフィムが)の重唱は死ぬまでに一度は歌いたかった曲。
これを同年代のスーパーテノール小沼俊太郎くんと田尻健くんとのトリオで歌うなんて、なんたる至福!
曲は32分音符の激しい装飾やペルシャのタハリール唱法風のトレモロなど、アラブ音楽の影響が色濃く、さらに濱田さんは通底のリズムを3:3:2のアラビア風にアレンジして、徹底して「異国情緒」を押し出します。
ただ歌うだけでもたいへんですが、そこに濱田さんのオフビートのグルーヴと抒情的なメンタリティが加わり、リハーサルは全曲で最も時間を要したと思います。
歌っている間は必死でしたが、それでも最高に楽しかった。こんな感触、なかなか訪れるもんではありません。
それから出だしの先唱と、大トリ前にあるMagnificatの”Gloria Patri”でもソロをさせてもらいましたが、これは濱田さんのオーダーで「サルデーニャ風」に歌いました。
サルデーニャ風ってなんだっけ?、と一瞬悩みましたが(笑)、コエダイでやっているような、それが歌われる風土をイメージして身体を感じ、真っ直ぐに出す地声のモードに入ってみました。
歌ってる方はめちゃ必死なのでよく覚えてないのですが、共演者の皆さんに結構褒めていただきました。ああ、こういう声が求められる場所があったんだなあ。
最高の音楽体験を下さった濱田先生、ソリストの皆さん、アントネッロとオルフィカの皆さんに感謝申し上げます。
でも、自分としては沢山の反省があり、まだまだこの先にも高みがあると感じさせられる本番でした。死ぬまでにあと10回はこのメンバーで歌いたい!(欲求)
来週もサリクス、歌譜喜のコンサートが続きます。このご案内はまた別記事で!
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