リモート合唱(テレコーラス)事始め

巷で話題のリモート合唱、僕もいくつかのグループで作品作りに参加しています。

最近では「テレコーラス」という呼称も現れましたが、たぶんコロナ以前からある「ヴァーチャル合唱(Virtual Choir)」という呼び名が一番長く使われてるかもしれませんね。

すでに10年前から、アメリカの作曲家・Eric Whitacre(エリック・ウィテカー)のオンライン・プロジェクトがあり、Eric Whitacre Virtual Choirの名で世界中の歌い手を募って映像作品を作り上げていました

10年前でこのクオリティって、今から見るとけっこう驚異的。

ただ僕は、この「ヴァーチャル合唱」というものには全然興味がなかった。

公開された動画を見ても、「一人ずつ歌ってなにが楽しいのか」「結局パソコンでいろいろいじれるなら何でもありじゃないか」「生の合唱なら必ず起こるエラーが全然なくて気持ち悪い」「作曲者の自己顕示欲エグいな」とか、まあ今思うとわりと失礼なことを考えてました。

でもこの感想って、いま世間で流行しているリモート合唱を強く否定する人、否定まではしないが、自分がやれと言われても乗り気になれない人たちの気持ちと大体似ているのではないでしょうか。


しかし今は、リモート合唱のプロジェクトのために、せっせと録音作業にいそしむ毎日です。

多分これが最初に録った作品。古楽専門団体のSalicus Kammerchor(サリクス・カンマーコア)の多重録音です。

さらには友人の柳嶋耕太君率いるproject initium(イニツィウム)でも。

いずれも、新型コロナの影響で予定していた演奏会が延期、または中止となり、そこへ注ぐはずだったエネルギーのはけ口として、4月くらいには録音作業が始まっていました。

最初はiPhone6一本でこなしていた録音録画作業も、USBコンデンサマイクを買い、アームスタンドを買い、三脚も買い、DAWソフトを入れ、と環境がどんどん進化。挙句、PCまで思い切って買い替えてしまいました。収入もないというのに。(あ、DAWソフトはフリーのStudio One Primeです)

現在もinitium、salicusでそれぞれ別のプロジェクトが進行中で、来月発表予定。また、近いうちに自分が指導するアマチュア合唱団、所属するプロ・アンサンブル・グループでも作品を作ろうという話が出ています。


あんなに興味なかったリモート合唱に、いまはどっぷりと足を踏み入れていますが、そこまで不思議な、違和感のあることではありませんでした。

新型コロナのせいで活動の場所を奪われてしまった音楽家にとって、インターネットを用いて作品を作り、発表することは、唯一とまではいわないまでも最適解の一つだった。
しかしその立ち上がりは、「否応なしに」という感じではなく、ごく自然な欲求の結露だったように思います。

単なる食わず嫌いだったんでしょう。でも、コロナがなければ、リモート合唱に手を出すことはなかったかもしれない。

どうしたってリモート合唱の録音作業は孤独です。やればやるほど人間の生の声が懐かしく、いとおしくなる。

一人で歌いながら、本当なら聞こえてくるはずの他者の声、感じられるはずの温度や香りを、いつもどこかに探し続けてしまいます。

他者に向ける意識をこれほど顕在化させられるって、コロナ前にはあまりなかったかもしれない。

リモート合唱(テレコーラス)を合唱とは認めない、生の合唱には到底かなわない、これが今後のスタンダードになるはずがない、とお考えの方もいらっしゃるでしょう。
そう考えるのも僕には理解できます。

しかしテクニックやアコースティックとは別に、「合唱する(したい)マインド」を改めて確かめることには、間違いなく寄与すると思います。


僕もまだリモート合唱の沼に足を踏み入れたばかりで、この分野がどのような発展をし、どういった聴取体験を導くか、計り知れないことのほうが多いです。

先が見えないことは、決して嫌いではありません。今できることを、がむしゃらにやれる時間をくれるわけですから。

これからどんどん作品が出ますので、その時にはまたお知らせいたします。

合唱

Posted by Taku Sato