信長貴富作曲『君の川柳』リモート合唱編集後記

1月10日、島根県芸術文化センターグラントワで開催されたグラントワ・カンタート2021で、信長貴富さんの新作合唱曲『君の川柳』がリモート合唱映像で初演されました。

まずはその映像をご覧ください。

合唱は栗友会合唱団、歌詞は栗友会のメンバーがコロナ禍での生活を歌った川柳から選ばれた25首が用いられ、ポップな曲調に合わせて諧謔的に、アイロニカルに、時にセンチメンタルに展開します。

この映像作品の編集を、栗友会団員である私の妻が担当することになったのですが、とてつもない作業量でしたので、音源編集の一部を私がお手伝いしました。これぞ内助の功。


音源の製作は一般的なリモート合唱のやり方に沿って行われました。すなわち、

①ガイド指揮撮影・ピアノ伴奏録音
②少数メンバーによるガイド用仮歌録音(対面)
③仮歌動画をYouTubeに掲載
④オンラインで練習
⑤個人録音を送ってもらう
⑥RX7でデノイズ(ノイズ除去)
⑦DAWソフトで合成・編集

という感じです。以前行った讃美歌リモート合唱での経験を大いに活かせました。

ちなみに2020年は音源のデノイズを1000ファイル近くやった計算になるようです。最近では音を聞く前に波形を見て何の処置が必要か分かるようになってきました(笑)。ここの周波数を削ると人の声の魅力を損なうなあとか、きれいな波形の人の周波数特性をよく観察して真似してみようかとか、趣味と実益も兼ねました。

しかし、今回の難しかったところは、まず曲が結構長くて複雑であったこと。1曲で6分以上あり、シンコペーション多めのビート、曲調の変化、テンポの速いスキャット・・・普通にリアルで歌うのでも十分な対面稽古が必要な曲です。

また、参加する合唱団が複数あり、キャラクターも多岐にわたっていること。リモート合唱が初めてという団もあり、個別のサポートはとても大変そうでした。松本の団体はすでに対面での練習をしていたので、個人録音ではなく団体での録音をし、東京からスタッフが撮影にいったそうです。

参加人数の正確な値はわからないんですが、少なくとも200名以上、一人で複数テイクを送ってこられる人もいましたので、総トラック数は260超となりました。トラック数では音源編集の自己最高記録!

百聞は一見に如かず、DAWソフトの編集画面をご覧ください。

南米の織物みたいですね

映像の方は妻の力作です。全体の構成は栗友会の企画部の皆さんが綿密にプランされ、計画的に映像素材を収集していました。このチームワークというか組織力、外部の人間から見て単純にすげえと思いましたね。

映像をスマホやPCの画面上に収める、というのは妻のアイディアですが、画面の中に画面があるという入れ子構造は、オンラインでしか合唱仲間とつながれなかったコロナ禍での在り方を象徴しているように感じられます。

ここまでの本格的な映像編集は妻も初めてのようで、慣れない編集ソフトと格闘しながら、昨年末ギリギリまで編集の鬼と化していました。ラストの画を取るために、自転車で1時間、栗山先生のところまで撮影に行ったりしてました。ほんとお疲れさま!

Power Directorというソフトを使用。多機能すぎて逆に不便

編集者として何回も何回も音を聞いて、何度も何度も映像を見直しているんですが、不思議と飽きないし、気に入ったところは何度でも見返したくなります。

一番のお気に入りは後半の「新そばの季節」のシーンですね。パンの見事さ、演者の達者さ、面白いんだけどどこか切ない不思議な感覚。一度もお会いしたことない方々ですが、一方的に親しみが深いです。

それからこの画。

ポカリスエットのポスターみたいですが(笑)、実は去年の正月、うちの田舎の磐井川堤防で撮った写真です。雲一つない晴天に、よく見ると月が浮かんでいます。風が強くて死ぬほど寒かった記憶があります。


オンラインでの初演披露後すぐに楽譜が出版され、昨日(1月23日)に行われた東京混声合唱団の定期演奏会において、アンコール曲としてリアル初演されました。(指揮:栗山文昭、ピアノ:キハラ良尚)

川柳は自作のものであれば差し替えも可、とされているので、冒頭のソロ部分は東混メンバーの自作川柳に差し替えられていました。マスクをして歌う、ということへのジレンマも吐露されていて、突然歌い手が身近になったように感じられました。こうやって「自分の歌」に上書きできるというのは、創作の一端を担うことでより主体的に音楽に取り組むことができる可能性がありますね。

ちなみに栗友会の動画、ある超有名合唱指揮者がこっそり紛れ込んで2回登場しますので、ぜひ探してみてください。

合唱

Posted by Taku Sato