アマチュア・シニア男声合唱団がコロナ禍で演奏会を開催するまで~前編~

2021年9月25日、大田区民センター・アプリコ大ホールにて、私が指揮をする東京稲門グリークラブの定期演奏会が行われました。

20数名のメンバーで、メンデルスゾーンなどロマン派のアカペラ作品から、歌謡曲、ミュージカル、シーシャンティ、早稲田ソングまでバラエティ豊かなプログラムを歌いきりました。

アマチュアの、しかも平均年齢70歳超えの男声合唱団が、緊急事態宣言が空けぬ中演奏会を開催することは、並ではない苦労がありました。

ここのその記録をまとめておくことで、この演奏会を振り返りたいと思います。

長文になりますがご容赦ください。

最初の延期決定(’20年3月~8月)

当初、東京稲門グリークラブ(以下東京稲グリ)は第9回目の定期演奏会を2020年9月に行う予定で、毎週火曜日に練習を続けていました。団員は約35名ほど。

しかしその年の初めから拡大してきた新型コロナの影響で、ご多分に漏れず練習は中止、練習の定席としてきた新大久保の会場が合唱禁止となり、一度目の緊急事態宣言が出た同年4月、コンサートを半年先に延期する決定をしました。

その後、5月ごろからZoomを使ったオンラインでのミーティングを開始。私自身にとっても初めての試みで、何をどうやっていいかわからないことだらけでしたが、電話でZoomの使い方をガイドするなどして、20名くらいのメンバーがオンラインに集うようになりました。

このころ、というか今でもずっと心に思っているのは、どうにかして東京稲グリというコミュニティを存続させなければいけいない、という使命感に似たものでした。いつか対面で合唱ができるようになったときに、帰ってこれる「場」としての合唱団を保持し続けられること。

なかなか対面での練習ができずにやきもきしていた一部のメンバーとは、この想いの行き違いで僕が激情的になったこともありました。今思えばいい思い出です(笑)。

このころはオンライン練習のノウハウも効率的な方法も手探りの連続。「歌う」以外の様々な練習プランを毎週考えていました。発声、曲の背景の勉強、発音指導、参考音源を聴く時間・・・etc。でもやっぱり周りとハモれない、大きな声で存分に歌えない、というもどかしさは増していく一方でした。

リモート合唱への挑戦(’20年9月)

オンラインでもなにかやりがいのある「成果物」はないか、と思っていたところ、「リモート合唱」という新たなフォーマットが現れました。

第1次緊急事態宣言のころから、自分自身も複数のリモート合唱プロジェクトに参加し、その表現の可能性を強く感じていました。

これを東京稲グリでできないか・・・

機械のことは苦手だとする団員も多かったでしょうが、初心者でも取り組めるようにパワポでイラスト付きの手引を作り、DAWソフトと動画編集ソフトを購入して編集作業を一から勉強しました。(パワポも編集もこのとき初めて使ったんです)

詳しくは過去の記事にまとめてあります。

できた作品がこちら。随分荒い編集ですが、僕自身では個々の歌い手の顔が見えるようで結構気に入っています。

断続的な対面練習、オンライン練習の活路(’20年10月~’21年3月)

リモート合唱に取り組んだ効果は非常に大きく、初めは「自分が一人で歌って録音した音が合唱になるの・・・?」といぶかしんでいたメンバーも、出来上がった動画を見て「合唱になっている!」とお喜び。期待以上の達成感をメンバーに与えてくれました。

意気が高まったところで、半年ぶりに対面での練習を試しにやってみました。従前の会場は使用できないので、公共施設で合唱OKのところを探し、時にさいたま、時に東京東部など、あちこちを渡り歩きます。

しかし、まだコロナへの恐怖心が強かったり、ご家族の理解が得られないなど様々な理由で練習に参加できないメンバーが多く、集まっても10人ほど。TOPテノールが一人もいない「トップレス合唱団」になることもしばしばで、やっとこさみんなでハモれる!とおもった予想図もそう思い通りには実現しません。

そうこうしているうちに再度の緊急事態宣言。

練習に参加する意思のあるメンバーも宣言のため一気に減り、対面練習の継続は難しいと判断し再びオンライン練習へ戻ります。

この冬の時期に、練習に刺激を取り戻すためにあえて新しい曲目に取り組むことにしました。それが高田三郎作曲の無伴奏男声合唱組曲『季節と足跡』。

ブレイクアウトルームでパート別に部屋を分け、パートリーダーを中心に音取り練習を始めました。パートリーダー諸氏には大変な負担をかけましたが、このパート練習システムは非常に効率が良かった。

まず一人一人を丁寧にフォロー、手助けできること。一人ずつ歌ってもらう時間を設けたのですが、普段の練習ならそんなことは恥ずかしくて無理だったはずが、なぜかオンラインではみんなスッと一人で歌ってくれます。

それからパート内でのまとまり、意思疎通が密になったこと。普段練習ではパート練習などはありませんでしたから、以外にもパートメンバーで集まって話をする、という機会が極端に少なかったのでした。

この時期のオンライン練習は非常に活発で、もともと1時間だった練習時間は団員の希望もあって1時間半に延長されました(そのあとの飲み会はいつも2時間以上(笑))。

再度の延期、演奏会開催への決意(’21年4月~6月)

度重なる緊急事態宣言のため、演奏会を再度延期することとし、半年後の9月25日と日程を定めました。

しかし、この時の延期は前回の延期を決定した時とは違った思いがあったように思います。

全体のミーティングでは、「無観客でもいいし、出られるメンバーだけでもいいので演奏会を開催したい」「演奏会を開くことで一度しっかり区切りをつけ気持ちを新たにしたい」という意見が出ました。

もちろん慎重派の意見も多数ありました。演奏会を開催することが、単なるエゴの発露になってしまうのではないか、という懸念もあったでしょう。

しかし私自身は、感染対策を講じながら慎重にプロ団体の演奏会にいくつか出演してきた経験から、アマチュア合唱団でも十分な対策を講じ、必要な施策をとっていれば演奏会開催は可能だ、と思っていました。

ワクチン接種が始まり、メンバーの多くが心配するコロナ重症化のリスクも軽減が望めるかもしれない。となれば6月くらいには対面での練習が再開可能なのではないか、という幹事長の読みも踏まえ、どのような形であってもステージ上で歌う、という決意をこの時固めたように記憶しています。

プログラムを再考し、当初予定よりも4分の1ほど曲を削りました。そのかわりコロナ禍においても練習を継続していながら、発表の機会がなかった合唱団ガイスマ(指揮は私)と合唱サークル・フロイデンクライス(指揮:泉智之さん)を賛助に迎え、1ステージずつ歌っていただくことにしました。


と、ここまで書いて想定以上に長文になってしまったので、記事を分けることにします。

後編はこちらから。