はじめての”のうぶたい” ~ジュゴン能「沖縄平家物語」再演
7月22日の海の日、昨年に引き続いて桜井真樹子さん作の創作能「ジュゴン能 沖縄平家物語」に、平教経(のりつね)役で出演しました。
去年の公演の記事はこちら。
ジュゴン能「沖縄平家物語」終演
本番の会場は去年と違って本物の能舞台!初台駅近くの住宅街の真ん中にある代々木能楽堂という歴史的な建物で、屋内の小さい方の舞台を使わせてもらいました。
実はわたくし、生まれて初めて能楽堂の舞台に上がりました・・・!
能の舞台って、非常に特殊な空間というか、日常からは切り離された異世界のような印象があって、観客として見ているときも、どこか遠く、ここではない場所の残像を見ているような気になるほどでした。
能という芸能自体が現実と非現実の境界をさまようようなものですから、芸によって時空間を遊離させているんでしょう。とにかく自分にとっては非常に遠いところにある場所だった。
それがまさか、流れに身を任せていたら、平家蟹の格好で能舞台を踏むことになるとは(笑)
初めての能舞台は戸惑いの連続でした。
当日の場当たりはわずか45分ほど。主要な場面を通しはしましたが、まず自分の声がちゃんと出ているのかどうかよくわからない。
身体の動きもぎこちなく、視線をどこに定めてよいか探りっぱなし。
環境、すなわち場所と空間が身体を規定し、身体が声を規定する、とはよく生徒さんや合唱団の団員に指導していることなのですが、まんま自分にそれが跳ね返ってきました。
能舞台経験のある真樹子さんやワキの吉松章さんは、能舞台の方が断然やりやすいとおっしゃってました。圧倒的な経験値の違い!
(真樹子さんによれば、能舞台の中でも全く笛の音が出ない場所があるのだとか。聞こえにくいのではなくて、音が出ないんだそう。不思議)
昨年はとにかくセリフと踊りと謡を覚えるのに必死だったのですが、今回はまざまざと「うまくできていない自分」の姿を見せつけられた気分です。舞台に立ったことで、ようやく能のスタート地点に着いた感じ。
悔しいのと探求心に火が付いたのとで、能を一から勉強しようかと本気で考えているところです。これもまた深い深い沼・・・。
ちなみに舞台本編についても少し説明しておきましょう。
あらすじはこちらのパンフレット画像をご覧ください。
シテ(主役)の真樹子さん演じる漁師、ジュゴンの母は全編ウチナーグチで語ります。
前幕の最後では、ジュゴンに会いに行く漁師を励ますため、3匹の平家蟹がマオリのハカを踊ります。これがとにかく強烈で唐突(笑)。真樹子さんにはハカの踊りが蟹に見えたんだそうです。
全身真っ赤にそろえた平家蟹三人衆。本番では顔にも赤いペイントを施し、眉毛も赤くしました。
後幕の最後にはジュゴンとの再会を祈ってハワイ民謡「アロハ・オエ」が原語で歌われますが、私も舞台に再登場しハワイアンダンスを踊りました。
もうこのダンスが複雑で複雑で、真樹子さんも僕らも大変苦労しました。直前1週間は毎日ずっとアロハ・オエのことばっかり考えてた。
時空はおろか、生物の種も国境も飛び越えて、自由自在なイマジネーションと民俗学的アプローチで、ジュゴンの物語を築き上げる鬼才・桜井真樹子。
この演目は毎年7月の海の日に上演を重ねていくとのことです。去年も今年も見に来てくださった方が、「拓さんは去年は手だけ蟹だったけど、今年は上半身も蟹になっていた」と評してくださいましたが、来年は全身で蟹になり、マオリとハワイへの瞬間移動がより一層自然な流れで生まれるように、個の力を磨き上げたいと思います。
最後に、本公演の企画を全面的にお引き受けいただき、クラウドファンディングの成功、当日の素晴らしいホスピタリティで我々演者を助けてくださったマリプラの梅田まりあさんに最大級の感謝と賛辞をお送りしたいと思います。
余談
ラストシーンだけウクレレ奏者としてご出演された海老沢さん、なんとサンドウィッチマンの全国ツアーの舞台監督をやられていると聞いて、大興奮!しかもご自身も奥さまとともに演芸の舞台に立たれているとのこと。めちゃくちゃ面白いメンバーでできた舞台だったんだなあ。
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